約 1,172,337 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1422.html
「……それで?」 「それでと言いましても、これで終わりですわ」 不機嫌そうにこちらを見つめるマザリーニ枢機卿の視線を受け、 アンリエッタは居心地悪そうに身体を揺らした。 魔法学院にある客室の一つである。 「殿下、殿下。私は尋ねましたな、 アルビオンの貴族たちにつけいられる隙はございませんかと。 その時の殿下のお答え、まさか忘れたなどとは申されませんな?」 「え、ええ。勿論です」 「では、ワルド子爵に命じられたと言う任務は何ですかな」 なぜこうなったのだろう。 アンリエッタは自問した。 ルイズの部屋を出た後、魔法衛士隊のワルド子爵を召し出してルイズたちへの同行を要請した。 それは間違っていない筈だ。 ルイズたちだけでは心配だったし、ワルドはルイズとも浅からぬ縁である。 助っ人としては上出来だと自画自賛していたのだ。 なのに、なぜ自分はマザリーニに問い質されているのだろう。 「殿下。 最初からこの鳥の骨めにそのことを打ち明けられておられれば、 ワルド子爵のみにアルビオンに向かっていただければそれですんだのです。 殿下のなさったことは、徒にミス・ヴァリエールとそのご友人を危険に晒しただけと心得られよ」 言葉もなく身を縮ませる主君を見やり、 マザリーニはこの度の任務に従事すると言う面々に関する記憶を頭の隅から掘り出した。 魔法学院に行幸するに当たり、教師と生徒の大まかな情報は調べ上げてある。 トライアングルメイジであるキュルケとタバサは戦力として申し分ないし、 ギーシュもドットではあるがその魔法は戦闘向きだと聞いている。 魔法が使えないルイズは不安材料であるが、彼女を欠いてはキュルケやタバサが参加する名分が立たない。 二人のトライアングルメイジの助力が得られるならば多少の不安は甘受すべきだった。 してみると後は各人の政治的背景だけか。 ルイズ及びギーシュの両名ならばまぁよかろう。 トリステインの貴族でもあるし、王女の命を受けても問題はない。 キュルケもよしとしよう。ゲルマニアの貴族であるが、ツェルプストーとヴァリエールの仲の悪さは有名だ。 ルイズへの対抗心から志願したと言えば大問題にはなるまい。 問題はもう一人、タバサと呼ばれる少女である。 雪風のタバサ、その本名をシャルロット・エレーヌ・オルレアンと言うガリアの王族であり、 世が世なればアンリエッタ同様、一国の姫として君臨すべき存在でもあった。 「で、では、改めてワルド子爵だけに……」 「それこそまさかです。 一度口に出した言葉はもはや口には戻りません。 まして王族の言葉なればそれは絶対。万難を排してでも実現させねばならぬものです。 殿下、ご自身の言葉の重さ、まさか理解されておらぬとは仰りませぬな?」 アンリエッタの言葉を軽くいなしながら思考を進める。 現王ジョゼフ派にして見れば彼女は目の上のたんこぶであり、 出来ればこの世から消えて欲しいと願っている存在でもある。 だからこの任務で死亡したとしても問題はあるまい。 では今も尚ガリアに残るオルレアン派とでも言うべき貴族たちにして見ればどうか。 もしこの任務でタバサが死ねば、その一事を持ってトリステインへの宣戦布告の大義名分となすかも知れぬ。 「そもそもですな、殿下。 ワルド子爵は魔法衛士隊グリフォン隊の隊長であり殿下の近衛であります。 その隊長が何も言わずに居なくなれば、どれだけの混乱が起こると思うのです。 それを殿下は誰にも秘密にせよとワルド子爵に仰られた。 子爵が混乱しつつも私に相談しなかったら、 彼には職場放棄あるいは間者の疑惑がかかっていたかもしれぬのですぞ」 言いながらも、その手は一時も止まらずに幾つかの書類を作っている。 ワルドへの特別任務を命じる書状、ルイズへの書状。 そしてガリア現王ジョゼフ派への密書。 王女の任務には一言も触れず、ただ学院に居たタバサと言うガリアからの留学生がアルビオンに向かったと言うことだけを記す。 もし何か不具合があっても、ジョゼフ派がそれを知っていて見過ごしたとなれば、 オルレアン派の怒りはトリステインではなくジョゼフ派に向かう筈だからである。 あるいはそれを契機に対アルビオン貴族軍の同盟をガリアと結ぶことが出来るかも知れぬ。 打てる手を打ちながら、マザリーニは胸中で密かに悪態をついた。 先帝に拾われる前、街中で無頼を気取って過ごしていた時の様な口ぶりで。 ――――これも政治か。くそったれ。 子供の犠牲を前提においた政治なんぞ、くそったれだ。 もっとも、それしか出来ぬ自分が一番くそったれだがな。 /*/ その頃、シャルロット・エレーヌ・オルレアンこと雪風のタバサは自分の得物の手入れに余念がなかった。 荷作りは既に済んでいる ガリア北花壇警護騎士団として秘密任務に従事していた彼女には、 常日頃から荷物を纏めておく習慣があったからである。 「なぁ、さっきの姫さんの言ったこと、まだ気にしてんのかい?」 「気にしてない」 少女以外誰も居ない筈の部屋に声が生じた。 タバサは一瞬驚いたものの、その声に聞き覚えがあると思い出すと、 机の上に投げ出されたナイフに視線を向けてそっけなく言い返した。 “地下水”と呼ばれたそれは、紆余曲折を経てタバサの所有物となったインテリジェンスナイフである。 「あー、なんか顔に見覚えがあると言われて、動揺してたな」 「お、解るのかい、デルフの兄貴」 「おお、俺の力の源泉は使い手の心の震えだからな。使い手の心の機微に詳しくなけりゃあやってられねぇよ」 「さすがだねぇ、戦闘から恋の相談までなんでもござれってかい」 武器たちの話は止まらない。 そもそも食事も睡眠も必要なく、疲労すら憶えない彼らにとっての暇潰しはお喋りだけなのである。 実は地下水がタバサの元へやってきて一番喜んだのがこれであった。 自分の退屈を理解し、お喋りにも嫌な顔一つせずに付き合ってくれる存在に出会えるとは思わなかったのだそうだ。 操る人間を変えながらガリアからトリステインまでやってきた甲斐があったとしきりに喜んでいた。 なにしろ相手も自分と同じ喋る武器で、記憶を一部失っているとはいえ自分よりも永い間存在して来た先輩である。 デルフを兄と呼ぶようになるのに時間はかからなかった。 「ま、それはそれとして。姫さんのアレな、多分、オルレアン公のことだぜ」 「……父さま?」 首を傾げる。てっきりガリア王ジョゼフの娘であるイザベラの事だと思っていたのに。 そう言うと、地下水はけけけとおかしそうに笑った。 「イザベラは、ガリアから外に出たことねぇ筈だからよ、あの姫さんだって会ったことねぇと思うぜ。 オルレアン公はその逆で、先王の名代でいろんな国の式典に出てたからよ、 姫さんもその時に見たんじゃねぇのか?」 そう、とタバサは呟いて鏡を見た。 「似ている……そう、わたしと父さまは似ているのね……?」 幸せそうに呟いて、少女はそっと頬を緩めた。 /*/ 出発は明日と決まったが、だからと言って無断で出発して良いわけもない。 他の所はどうか知らないが、ルイズの家には規則を破るのが大嫌いなお方が居るのである。 任務とはいえ無断で学校を休んで戦地に向かったなどということが知れれば、 生きて帰ってこれても半殺しの目に遭うかもしれない。 それに、もう一つ懸念事項もあることだし。 そんな訳で、ルイズはオールド・オスマンにその旨の許可を取りに行くことにした。 夜半にも拘らずオスマン氏は未だ仕事中であり、ルイズの申請に快く許可をくれた。 ミス・ロングビルの後任の秘書は未だ決まっていない。 彼女がいつ帰ってきてもいいようにだとオスマンは言うが、 その実、後任として入った秘書が彼の痴漢行為に三日と耐えれないというのが真実らしい。 大猫に跨って自分の部屋に帰ってくると、扉の前に佇む人影が目に入った。 僧侶のような丸い帽子を被り、灰色の長衣に身を包んだ痩せぎすの男である。 「……マザリーニ枢機卿?」 「初めましてかな、ミス・ヴァリエール」 立ち話もなんだしと部屋に招きいれ、椅子を勧めた。 卑しくもトリステインの枢機卿がわざわざ出向いたのだ。 それ相応の理由というものがあるのだろう。廊下で話していい話題でないことは確かだった。 「さて、夜も遅いし、単刀直入に言わせて貰おうミス・ヴァリエール。 君が……ああ、いや、君たちが、だな。姫殿下より拝命した任務についてだ」 「失礼ですが、マザリーニ枢機卿。閣下はそれをどこからお聞きになりましたか?」 うってかわって醒めた声で尋ねたルイズに、マザリーニは逆に愉快そうに頬を緩めた。 彼はルイズのこの反応は当然だと思うし、それすら出来ぬ者に任務を任そうとも思わない。 問題は、それを当然と思う者が彼の部下の中にすら少ないということだ。 「無論、姫殿下からだ。 殿下は君たちだけにこの任務を与えるのが心配になったようでね。 魔法衛士隊の中から一人、君たちに同行するよう命じられたのだよ」 「聞いておりませんが」 「そうだろうな」 軽く流すと、マザリーニは一通の書状を取り出した。 封はされていない。ルイズに渡して中を確認するように言う。 それは枢機卿であるマザリーニの名において秘密任務を命じる旨が書かれており、 同時に任務遂行に必要な資材の徴発権を与える旨が記されていた。 「解ってくれると思うが、この件については姫殿下は何も知らない。 君を選んだのも、命令を下したのも、すべて私のしたことだ」 「……何か問題が起こった時、姫さまの楯になるおつもりですか」 書状を確認して懐にしまうとルイズは尋ねたが、マザリーニは軽く眉を上げることでそれに答えた。 「なんのことかな、ミス・ヴァリエール。この歳になると耳が遠くてね」 「失礼しました、マザリーニ枢機卿。 もしよろしければ、有能な水の使い手を紹介いたしますが」 「それはありがたい。私の知り合いに水の使い手は少なくてね。 その代わりといっては何だが、火の使い手には少々心当たりがあるのだが」 言いながら、袋に包まれた品物を取り出して机の上に置く。 その時に沈痛な表情がその顔を過ぎるのをルイズは気づかなかったが、 大猫はそれに気がついてニャァと鳴いた。 あれは、シオネに毒薬を渡した男と同じ表情だ 「その火の使い手が作った秘薬でね。 最近ゲルマニアで開発されたばかりの物だ。 人間など簡単に粉々に出来る爆発を生み出せる。 使い方はこの紙に書いてあるよ」 ルイズが息を呑み、微かに顔を蒼褪めさせながらそれを見た。 この任務の危険性は承知していた。 承知していたつもりだった。 怪我をすることも、死ぬかもしれないことも知っていた。 だがこんな風に、簡単に人を殺せるモノを渡されるとは思っていなかった。 「戦で出る損害についてだが、 私は死亡よりは行方不明の方が望みがあると考える。 行方不明だった者が数年経って帰還した例など有り触れているからね」 言いながら、マザリーニは胸中で自らを罵り続けた。 姫殿下の御為にと言えば聞こえはいいが、その実、自分が彼女に勧めているのは自殺だ。 もし殺されそうになったら、その前に自分で死ねと言っているのだ。 まだ若い、自分の三分の一も生きているか解らない少女に、 生の意味もまだ知らぬ少女にその命を自ら散らせと言っているのだ。 王女に仮初の希望をもたらすために死を選べと言っているのだ。 そして何より許せないのは、 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールに関する調査が真実ならば、 彼女はそれを拒まないだろうことを確信している自分の性根の卑しさについてだった。 「それは……確かに。 最新式の秘薬ですか。随分と頼もしいことですね」 「許しは乞わんよ、ミス・ヴァリエール」 恐怖を抑えてルイズは笑い、マザリーニの苦悩はまた深くなった。 泣いてくれれば、罵ってくれれば、憎んでくれれば、 彼は自分を誤魔化す事も出来ただろう。 だがルイズはそれをせず、ただ笑って受け入れただけだった。 それを僥倖とは思わなかった。 自らに罪がないなどと思うことなど出来なかった 先帝の死後、自らの手を汚してでもこの国を支え続けた男の誇りがそれを許さなかった。 彼に出来たのはただいつもの様に告げることだけだった。 「だが、後悔はさせんつもりだ」 「それで充分ですわ」 ルイズはそっと目を伏せた。 ああ、ここにも貴族が一人居た。 自らを悪に任じても、それでも誰かの為に力を尽くす者が居た。 ならば自分はそれでいい。 それだけで、自分は死地へと行けるだろう。 だが、仲間たちまでそれにつき合わせることもあるまい。 「もう一つだけ約束していただけますか、マザリーニ枢機卿。 もしもタバサとキュルケとギーシュとわたしが死ぬことも許されず捕虜になった場合ですが」 みなまで聞かずに、いいだろうとマザリーニは言った。 捕虜の引渡しとなればどのような要求がくるか解ったものではない。 だがそれがなんだと彼は思った。 目の前の小さな貴族のためならどんなことでもしてやるつもりだった。 「順番は言った通りでいいのかね?」 「はい。タバサはトリステイン人でもゲルマニア人でもありませんし。 キュルケはトリステイン人ではありません。 ギーシュはトリステイン人ですがわたしに巻き込まれたようなものですから」 その言葉に、マザリーニは微かに胸を押さえた。 ガリアとの関係を考慮すればタバサを一番にしているのは好ましいと、 少しでも思った自分が許せなかった。 「いいだろう。必ず助けてやる。 ミス・ヴァリエール。君と、君の仲間たちが生き残ったならば、 どんな手を使ってでも助け出してやる。 これは約束だ。始祖ブリミルに誓って果たされるべき約束だ」 ルイズは嬉しそうに頭を下げた。 彼女は今までマザリーニのことをよくは知らなかった。 平民の血も混じっていると言う噂のある彼の風評はお世辞にもいいものとは言えず、 マリアンヌ大后の後ろ盾を良いことに国政を操る奸雄だというモノが殆どだった。 だが、そんな噂など全て嘘だった。 ルイズはずっとずっと昔にあの人から聞いた言葉を思い出した。 世界は嘘に満ちている。最後に残るものこそが真実だ。 「マザリーニ枢機卿。魔法が使えないわたしは貴族として半人前ですが」 そして、ルイズは華やかに顔をほころばせて笑った。 「あなたは、本当に貴族らしいと思いますわ」 面と向かって言われたマザリーニは我知らず赤面する自分を自覚した。 今まで、そんなことを言われたことなど一度として無かったのだから。 退去する旨を伝えて席を立ち、扉の前で足元に視線を移す。 門番のようにそこに座っている大猫を見やると口を開いた。 「ミス・ヴァリエール。確か、あなたの姉のカトレア殿は動物がお好きだと聞いていたが」 「ええ、その通りですわ」 「この大猫、あなたの使い魔をお見せすれば、カトレア殿はたいそうお喜びになると思うのだが、どうだろう」 最後にそう言い残し、未だ耳の赤みが抜けぬ枢機卿は部屋を辞した。 それを見送ったルイズはブータと顔を見合わせて苦笑する。 「なんとも不器用な男だな」 髯を震わせて大猫が言った。 最後の言葉に隠されたマザリーニの真意を読み取れぬほど彼らは鈍感ではなかった。 すなわち――――“必ず生きて帰れ” 前に戻る 次に進む 目次
https://w.atwiki.jp/impcsuz/pages/55.html
2-1 設定国民の名前まとめ(全国版)[羅幻藩国] 設定国民の名前 よみ 備考 モモ=フェニア カシワ=セキュラ セセリ=ガリア ササミ=オルガナ テバ=コーラー ヘルツ=フォチュナ ズリ=フェット スナ=タイフォ キンカン=ラーズ ツクネ=トレバー ネギマ=キューン マツバ=オリン ヤゲン=ターキン トサ=ビンクス サガリ=シボース ハラミ=カルリシアン シラ=ウィンドゥ フエ=モスマ イカダ=ガンレイ ウズラ=ディアス 計20名 報酬入金先 羅幻藩国口座 20名分
https://w.atwiki.jp/nitendo/pages/9124.html
このページでは【ドラガリアロスト】のキャラクター、 イリア を解説する。 【ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】のキャラクターは【イリア(ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス)】を参照。 プロフィール 作品別 関連キャラクター コメント プロフィール イリア 他言語 種族 【ヒューマン】 性別 女 職業 錬金術師 趣味 ガラクタいじり 特技 徹夜 好き メーネのハーブティー 苦手 整理整頓 声優 高橋李依 初登場 【ドラガリアロスト】 類い稀な才能を持つ錬金術師。その腕は不可能とされていた『異界の鍵』の錬成に成功するほど。 軍に両親を殺され、【妖精】に育てられた。彼女は自由に生きたいと願うが世界はその天賦の才を放っておかない。 聖竜【エリュシオン】と契約を結び、後世の時代では紆余曲折あり「女神」と称されている。 作品別 【ドラガリアロスト】 サービス初期から名前だけ登場。1000年前の時代にエリュシオンと契約したイリア教団の女神という事ぐらいしか伝わっておらず、詳細は不明だった。 2020/09/30から開催された2周年記念のレイドイベント「ロストヒストリア~失われし真実~」で当人が登場。 このイベントは【モルトメサイア】が【ゼシア】を1000年前の世界にマナの思念体として飛ばすという形で入り、1000年前の世界が舞台となっている。 プレイヤーの前に現れたイリアは、白い長髪で銃を片手に持つ、研究マニアなボクっ娘の錬金術師という想像を絶する存在であった。 森の中でイリアと出会うが、その直後にイリアを付け狙う【アウグス】という人間の軍隊の男と【兵士】達が現れる。アウグス達はゼシアを人質に取り、軍力増強のため異界から戦力を呼び寄せる実験を行わせる。 が、異界の裂け目が出来ても出るのは【魔獣】のみ。混乱するアウグス達の隙を見てゼシアと共に脱出するのだった。 その際に異界から何か出てきたようで、イリア達に付き添って隠れ家まで着いてくる。イリアはこれを見放せないとして、受肉する器を作るために肉体を錬成。その異界から出てきた何かが宿った存在を【モルティス】と名付けた。 【メーネ】と暮らしながらモルティスに愛や自然の素晴らしさを伝えるが、アウグスがマナ爆弾を仕掛けてドラゴン達をおびき寄せる情報を盗聴したため、それを食い止めるために都へと向かう。その際にはガラクタいじりで作成した謎の乗り物(コックピットしか映らないので詳細不明だが人の足よりはずっと早いらしい。【バイク】だろうか)を使用していた。 しかしこれはアウグスがイリアをおびき寄せる為の罠。待ち伏せしていたアウグスの【戦闘人形】?や兵士達が現れ、再び異界への門を開くように仕向けた。再びアウグスの要望を呑みかけた所でモルティス達に説得されてそれを拒否し、戦闘となる。 この戦闘が原因で森が焼けてしまい、ドラゴン達が怒り狂い初めてイリア達へ襲いかかる。万事休すかと思われたが、そこに【ミドガルズオルムゼロ】が助けに入り、ドラゴン達の怒りを鎮める事に成功した。ミドガルズオルムとは昔からの知り合いで、イリアにとっては伯父さんのような存在らしい。 その際にゼシアが未来から来た思念体である事を話し、それ自体はあっさりと受け入れたが、自分がエリュシオンと契約したという話には驚く。ゼシアは何故なのかを疑問に感じていたが、それはイリアがエリュシオンの思想を存じているため。話の直後にエリュシオンが現れ、マナの営みを全てドラゴンに託して人間を隷属にする事とその理由を話し、ゼシアはエリュシオンの本性に驚愕してしまう。 エリュシオンは人とドラゴンの戦争の様子を見せ、イリアに契約を強要させる。エリュシオンがイリアとどうしても契約を結ぼうとしていたのははじまりの人の血脈を受け継ぐ因果によるものらしい。イリアはエリュシオンの傀儡となる事を拒むが、このままではアウグスのマナ爆弾により世界が滅んでしまう事を話され止むを得ず契約を結ぶ。が、契約の直後、エリュシオンはイリアを攻撃。これは契約石を撃ち抜いて真なる契約を結び、マナの営みをエリュシオンが操作をするためであった。 イリアを撃ち抜かれた事によりモルティスの怒りが爆発。これによりモルティスの姿が変わり、モルトメサイアと化してしまう。 モルトメサイアとエリュシオンの戦いで世界が滅び行く中、イリアはようやく目を覚ます。死亡した訳ではなかったようだ。イリアは契約した事でエリュシオンの思考が分かるようになり、どうやら現在のエリュシオンはモルトメサイアが想像以上に強い事で戦闘が終わらずに困っているらしい。 この考えにつけ込むべく、組織を作る事を画策。「聖竜を崇め、魔神を憎む」という思想を持たせ、人間達をエリュシオンの手足とし、世界の警備を任せる……即ち、イリア教の発足を提案。 エリュシオンとモルトメサイアの戦いに出向き、モルトメサイアに残っていたモルティスの善意の心を分離させるが、残ったエリュシオンに対する憎悪の心はモルトメサイアとして残ってしまう。 モルトメサイアは凄まじい力で暴れ、アウグスの魔幻兵器ディエスイレでもまったく傷を負う事もなく一蹴。これを見て絶望する兵士達だったが、イリアはエリュシオンと共に発破をかける。すると人とドラゴンの気持ちが一つとなって兵士達は次々と竜化。モルトメサイアへと立ち向かった。 が、それでも倒せずにモルトメサイアとの戦いは膠着。モルティスの提案で自らを犠牲に異界へと封じ込める策に乗り、異界の裂け目を開く。そしてモルティスとモルトメサイアが異界へと飛び込んだ後、エリュシオンと隷属の契約がある自分自身が「世界の敵」となる事を恐れ、自らも異界の裂け目へと飛び込んでこの歴史から姿を消した。 この選択にメーネは泣き崩れてしまうが、モルトメサイアが封印された事で世界は平和を取り戻す。 メーネは羽根を折ってイリアに代わって「イリア」を名乗り、エリュシオンの契約者の英雄として崇められる。そしてドラゴンを尊重する教えを布教して行き、イリアの提案した通り「イリア教」の礎となるのだった。 メインストーリーでは第21章で唐突に登場。話の規模が大きくなってきたためか、【シェス】?に代わる新たな狂言回しのような役回りで一行を助ける。 第25章では風の巫女として任命されており【ミドガルズオルムサガ】の試練を受けた。 巫女の一人として第26章でも最後まで共に戦い抜いた。 通常版 性能 二つ名 天衣無縫の錬金術師 (デリングアルケミスト) ★ 属性 武器 タイプ HP 攻撃 5 光 銃(長銃) 攻撃 758 502 入手 実装日 レジェンド召喚 2020/10/05 スキル ドライブバスター(シェア可能/6) Lv3 ターゲットに光属性のダメージを与え、「閃熱」状態にする。【マルチターゲット】スキルは複数の敵をターゲットできる。【アルケミーカートリッジ】が1つ以上あるとき、このスキルは次のようになる。直線上の敵に光属性のダメージを与え、「閃熱」状態にする。【アルケミーカートリッジ】を1つ消費する。 アルケミックエンハンスメント Lv2 チャージされている【アルケミーゲージ】の本数に応じて、自身に20秒間【アルケミーカートリッジ】を付与する。この効果中はバーストアタックで【コレクトアンサー】が発射される。【コレクトアンサー】は全ての【アルケミーカートリッジ】を消費し、その数に応じてヒット数がアップする。このスキルは【アルケミーゲージ】が1本以上チャージされている間のみ使用可能。【アルケミーカートリッジ】が1つ以上あるとき、このスキルは次のようになる。前方の敵に光属性のダメージを与える。【アルケミーカートリッジ】を1つ消費する。スキル習得時、【アルケミーゲージ】を追加する。【アルケミーゲージ】は【アルケミーカートリッジ】が1つも付与されていない時、通常攻撃、回避攻撃、バーストアタックを敵にヒットさせるとチャージされる。【アルケミーゲージ】はヒット数が30以上のときチャージ量がアップする。 EXアビリティ ゲージブレイク+20% パーティ全員のモードゲージの減少量が20%アップする。 リンクEXアビリティ 【光】連撃 10ヒット以上で耐闇+10% パーティ全員が以下のアビリティを得る。キャラが光属性ならヒット数10以上のとき、【闇属性耐性が10%アップするバフ】が発動。 アビリティ クローズアンサーⅡ フリックして回避したとき、ターゲットに追加攻撃を行うようになる。 ファインドアンサーⅡ 「毒」、「呪い」状態になる確率が100%ダウンする。 クリティカルアウトプットⅡ 【アルケミーカートリッジ】バフが時間経過以外によって解除されるとき、自身に【15秒間、クリティカル率を30%アップするバフ】が発動。 引用 ドラガリアロストDB【ドラガリDB】 2020/10/05から開催されたプライズレジェンド召喚で実装。 恒常キャラだがドラガリアフェス限定キャラ同様のダブル耐性を持つ。 アルケミーゲージという独自リソースを持っており、それを消費してアルケミーカートリッジにする事でスキルが強化される。 星竜祭Ver. 性能 二つ名 祝福の錬金術師 (ギフテッドアルケミスト) ★ 属性 武器 タイプ HP 攻撃 5 火 銃(散弾銃) 攻撃 754 505 入手 実装日 レジェンド召喚 2021/12/03 スキル フルスロットルライディング(シェア可能/6) Lv3 前方の敵にダメージを与える。攻撃時、方向制御が可能。スキル使用時【アルケミーカートリッジ】を全て消費し、2つ以上消費した場合、その数に応じて威力と攻撃範囲がアップする。 スターナイトエンハンスメント Lv2 スターリーゲージを最大までチャージし、パーティ全員に防御力アップのバーストオーラを付与する。 Lv1 スターリーゲージを1本チャージし、パーティ全員に防御力アップのバーストオーラを付与する。 フルスロットルライディング(シェアスキル版/5) Lv3 前方の敵にダメージを与える。攻撃時、方向制御が可能。 EXアビリティ ゲージブレイク+20% パーティ全員のモードゲージの減少量が20%アップする。 リンクEXアビリティ 【火】連撃 10ヒット以上で耐風+10% パーティ全員が以下のアビリティを得る。キャラが火属性ならヒット数10以上のとき、【風属性耐性が10%アップするバフ】が発動。 アビリティ スタートリックⅡ フリックして回避したとき、ターゲットに追加攻撃を行うようになる。また、スターリーゲージが追加される。スターリーゲージは通常攻撃や回避時の追加攻撃を敵にヒットさせるとチャージされる。スターリーゲージが1本チャージされるたび、自身に【アルケミーカートリッジ】を付与する。 気絶耐性+100% 「気絶」状態になる確率が100%ダウンする。 クリティカルギフトⅡ 【アルケミーカートリッジ】バフが消費されるとき、自身に15秒間、【星夜のきらめき】(重複上限3)を付与する。【星夜のきらめき】バフ1つにつき攻撃力が15%、クリティカル率が15%アップする。 引用 ドラガリアロストDB【ドラガリDB】 2021/11/29から開催された撃退イベント「愛は星降るように」で登場。 仲間としては2021/12/03から開催されたプライズレジェンド召喚で実装。フリック回避で追加攻撃を行えるかなり特殊なキャラクター。 関連キャラクター 【メーネ】 【モルティス】 【モルトメサイア】 【ミドガルズオルムゼロ】 【エリュシオン】 【ゼシア】 コメント 名前 全てのコメントを見る?
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5815.html
前ページ次ページジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア 23,烈風 ワルドがのんきに笑っている間、カリーヌ・デジレと現マンティコア隊の訓練は熾烈さを増していた。 一人、また一人と風にあおられ、マンティコアと共に空高く吹き飛ばされる。 「どうしたというのか!それで終わりか?」 烈風の風は止む気配が全くない。先ほど吹き飛ばされた現隊長、 ド・ゼッサールが勇敢にも突撃した。瞬間、彼は風に舞う。 今回の終了条件は、カリーヌに一撃でも攻撃を浴びせること。 「遅い!」 また200メイル上空まで吹き飛ばされる。ちゃんと死なないように、 カリーヌは地面に当たる瞬間、彼を魔法で少し浮かせてから落とす。 「…きょ、教官殿。も、もう動けません」 マンティコアと共に倒れている誰かが悲痛そうに訴えた。まだ新人の様である。 「甘えるな!王家に危機が迫っていても、その様な事を言えると思っているのか!!」 泣く子も黙る王宮衛士隊。グリフォン隊の様な華やかさは無いが、 マンティコア隊は規律だった連携による多重攻撃が売りである。 全て見切られ、全員がマンティコアごと吹き飛ばされるなんて。 烈風の伝説は本当だったのか。新人はそう思い、 また風に吹き飛ばされて気絶した。 伝説。それは語られていく内に微妙に変わっていき、 尾ひれ背びれが付いて、最終的にまるで違う話になるのが常である。 もちろん、彼女は王宮勤めであるから公式な記録が残ってはいる。 たった一人で火竜山脈のドラゴンを鎮圧したとか、 エスターシュの反乱を正規軍が来る前に鎮圧したとかがそれだ。 しかし、それらは一般平民からしてみたら酒の肴に話す、 ちょっとした笑い話である。 いくら貴族といえども流石にそれは誇大過ぎる。 宣伝の為に王家が作ったお話だろう。というのが彼らの言い分だ。 実際には尾ひれどころか、皮がはがれ身が落ち、 骨だけでスイスイ泳ぐ伝説であるとも知らず。 実は武芸にも秀でていて、1個中隊から魔法を使うという話があるが、 非メイジの2個中隊までなら魔法を使わなくてもどうにかなるらしい。 弓矢や鉄砲、そして大砲の弾を剣で弾いたり切ったりしながら、 突撃して兵士をなぎ倒していく様を、武器屋の親父は見たそうだ。 何故彼が引き分けに持っていけたか? 埋もれてしまった伝説は、いつか明らかになるだろう。 火竜鎮圧の際、たった一人で向かったと言うが、 珍味である極楽鳥の卵を一度食べてみたかったから、 休暇の折りに行ってみただけである。 勿論、鎧なんて装備しないラフなスタイルで。 季節がたまたま火竜の繁殖期であった為、 そこら辺の火竜が暴れて死なないように、 ドットスペルで気絶させながら極楽鳥の巣まで行った。 途中、季節の関係上ガイドを雇えなかった為に迷ってしまったが、 なんとか卵を取って宿泊している町に帰ってみると、 何故か付近の町や村の人々に感謝された。 王宮に戻ってみれば、王直々に竜殺しの二つ名に改名させられそうになった。 しかし彼女は今の二つ名が気に入っていたので、 「いえ、今の烈風で十二分にございます」 と訳の分からぬまま前王にキッパリと言い、 それでこそ貴族の鑑よ!と言わしめさせたのだ。 ちなみに、時期が悪かったのか卵はあまり美味しくなかったそうな。 王宮は、ガリアに恩を売ったことにする為、 この件を火竜鎮圧の任により、火竜山脈に向かわせた事にしたのだ。 ガリアからしてみれば、示威行為である為どうにかしたかったものの、 火竜達が人里に寄りつかなくなった事と、 たった一人で火竜山脈を制覇した烈風に恐れを抱き、 ただ感謝する他なかったという。 トリステイン王は、その気になればハルケギニア全土を手にする事も出来ただろうが、 持ちすぎる事による弊害を良く理解していた。 それ故、彼女を使って上手い具合に外交を進めて、 トリステインを今の地位に置いたのである。 ただ一言「最近、『烈風』がな…」と言えば、大抵他国は条件をのむものだった。 娘はアルビオンの皇太子とでも結婚させるつもりだったのだ。 結ばれるだろう二国間の同盟を、破砕出来るほど強大な戦力を投入する戦争は滅多にない。 聖戦でもあれば別だが、いくらロマリアでも王家にそんな事はしないだろう。 そう考えて、あまりアンリエッタには政治について学ばせなかった。 ガリアによると、烈風一人を沈黙させる為に、 10年分の国家予算を軍事費にする必要がある。 という結果が出たこともあるらしい。嘘か誠かは分からないが、 それほどのメイジであることだけは間違いない話である。 カリーヌ本人からしてみれば王家に忠誠を誓っているのだから、 それらを誇らしげに思っていた。彼女は戦えなくなるまでマンティコア隊にいようと思い、 尚更日々鍛錬に励んだという。 そんな彼女が何故結婚したのか?現ヴァリエール公爵の、 熱烈すぎるアプローチに仕方なく折れたからだ。 立とうとする者が、いや、息をするので精一杯なマンティコア隊を見て、 カリーヌは訓練の終わりを言い渡した。父上の訓練はもっと凄かったけれど、 死なれると困りますからね。そんな事を思いながら、 自分の使い魔と共に訓練場を去ろうとした時だった。 誰かの悲鳴がかすかに聞こえた。マンティコアと共にそこへ急ぎ駆けつける。 衛士隊の宿舎、グリフォン隊の隊長室の窓下。 グリフォンに乗ったワルドが、気絶したアンリエッタ姫殿下を連れて、 どこかに飛び去ろうとしていた。 何故だ。ワルドは自身の計画を確認して実行に移した。 瞬間的な当て身による気絶。姫殿下は女官の死体に気付く前に倒れた。 か細く悲鳴をもらされたが、こんな声を聞かれるはずがない。 退散するか。と杖を手放したアンリエッタを抱えて、 外に待たせてあるグリフォンに乗って飛ぼうとした時、 「何をしているか!ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド!!」 振り向けば烈風がいた。怒りに燃える彼女と、 共に修羅場をくぐり抜けたのだろう、使い魔のマンティコアが吠える。 グリフォンは恐れおののいた。ワルドはどうにか耐えようともがいた。 「は、ハハハ…」 そういえば、最近マンティコア隊の訓練の後が凄まじい事になっていたな。 この人ならそれくらいするだろうな。ああ、始祖は私に死ねというのか。 伝説を前にどう立ち向かうか。今、ワルドは崖っぷちにいた。 「これがリコールか。いや、初めて見たよ」 タムリエル中央、シロディールより外に出た事が無かったマーティンは、 東部地域のモロウウインドで、実際に行われているという転移魔法を初めて体験した。 転移とはどのような物かをある程度理解できたが、 しかしそう簡単に使える様になったりはしない。 ちゃんと魔法構成を教えてもらわなければ習得なんて出来ないし、 転移の魔法はとても複雑で、『神秘』系統の熟練者でなければ使えないのだ。 この系統はかなり謎が多い。これに属する魔法は、 訳が分からないからこれにしておこう。といった風に置かれた物もある系統で、 未だに魔法の結果が何故そうなるのか、あまり分かっていないのだ。 そして根気強く新魔法の実験をしても、瞬間的に結果内容が変わる事すらある。 最近、いくつかの魔法が別系統へと移行した事からもその複雑さが分かるだろう。 そんな理由で、神秘はほとんどのメイジが研究を嫌がる魔術系統であり、 現在の政策と文化的な理由から魔法への理解が浅いシロディール地方では、 それらについての専門的な学習が出来ない。 その為、モロウウインドではアイテムに付呪されるくらいよく使われる、 マークとリコール(Mark and Recall)の使用が一般には未だ禁止となっている。 機密と治安はもちろんのこと、市民が納得する安全性の実証が無い限り、 帝国議会はシロディールでの使用を認めるつもりはない、と表向きには表明している。 別の場所に姿を現したときに、果たしてちゃんとした状態で現れるのか。 それが帝国議会と魔術師ギルドの論争の焦点となっている 確たる証拠の提示を求める帝国議会側と、統計的にモロウウインドで保証を得ているから大丈夫。 とする魔術師ギルド側。帝国は最初から採用する気が無いため、まだまだこの論争は続くだろう。 『神秘論』という本に神秘系統について詳しく書いてあったけれど、 さて、どんな内容だったかな。メイジとして、 良く使われる神秘系統の魔法以外はほとんど覚えていないし、 それの研究なんてマーティンは一切やった事がなかった。 「ええ。私が使える訳ではありませんが、ノクターナルの付呪の効果を発動させるくらいなら、問題なく扱えます」 フォックスは跪いて答え、それにならい他の乗組員達も跪く。 タムリエルに住み、一般的な読み書きを行える知能を持つ種族なら、 誰でもスクロール(巻物)に書かれた魔法や、アイテムに付呪された魔法を使うことが出来る。 それを使える程の魔法力が無くても、品物に込められた魔法力が肩代わりしてくれるのだ。 「い、いや、まぁとりあえず立ってくれるかい?」 やはり慣れない。皇帝としてより、一般市民として過ごした時間の方が、 遙かに長いマーティンは跪かれたりした事などほとんどないのだ。 緊急事態だったあの時はともかくとして、 今みたいな時にやられるとどうにもむず痒くて仕方がない。 「ははっ!」 曇王の神殿を思い出す。ブレイズとの温度差の違いで苦労したな。 やっぱり私なんかが皇帝になってはだめだ。と思いながら背筋をピンと張って立つ、 グレイ・フォックスとその一同を見た。何故かルイズまでしている。 後の方に彼女たちが見えた。無事で良かったと思いながらマーティンは言った。 「ルイズ。君までしなくていいから。というより皆さん。普通に立ってくださって構いませんから」 空気的にやるべきかと思って。と真顔でルイズは言った。 他の連中もいつものだらけた雰囲気に戻る。 グレイ・フォックスが号令を発して、彼らは荷物を運び始めた。 彼が一礼をして去った後、マーティンの後から声が聞こえた。 『有名人はつらいな。竜の子よ』 いつの間にか起きたらしいノクターナルが言った。 どうにも、マーティンはデイドラ達の間でも名が知れているらしい。 デイドラ王子の一神、メエルーンズ・デイゴンを撃退したのだから当たり前だろうか。 「ええ、全くです…ところで、その、プリンス・ノクターナル?」 あなたがここにいると言うことは、ここはあなたの領域ですか? そうマーティンは聞いてみる。ノクターナルは首を横に振った。 『否。ここはエセリウスとオブリビオンの狭間。いつ出来たのか、どこの誰が創ったのか我は知らぬ』 「そのような世界があるのですか?」 『我が知る限りではこの地のみ。されど、殆どのデイドラは自身の力ではこの地に来ることすら叶わぬ』 竜神アカトシュがタムリエルに施した物よりは弱いが、 それに似た制約がここにもあるらしい。 『故に、ここで己の力によって来ることが出来るデイドラは、 シシスが生み出した純正な存在のみ。 その上で、この地での信仰か、何らかの影響を持っておらねば入る事が許されぬ。 この地の誰かに呼び出されるのであれば別であろうがな。 我は頭巾を奪いし者が信仰を集める事によって、この地にいる事を許されている。 入ってしまえばある程度好きに出来る。まこと不可思議な制約よ』 どこかで灰色頭巾の男がため息をついた。テファに服を渡さなければ良かったと何度後悔したのだろうか。 『されどこの地は面妖なり。この地の定命の者達を殺せば、 「マラキャス」が造ったメイスの如く、我らは力を無くし、 オブリビオンの最下層にまで送られてしまうのだ。 それ故、ここにデイドラの主が現れる事は滅多に無い』 「あの時、思いっきり殺ろうとしていなかったかい?」 影の中に、イザベラを入れようとしたのをフーケは思い出して言った。 『我が領域に飲み込んでからな。それならばおそらく問題は無かろう。 不可思議なのはこの地の制約。我こそが法である我が領域内ならばあの程度、どうという事はない』 「んじゃ、何であんな事言ったのさ」 『決まっているであろう。格好良いからだ』 やっぱりこいつぶん殴りたい。そう思いながら頭を抱えるフーケを余所に、 そろりと、ルイズはノクターナルに向かって手を上げた。 『何用か?竜の子を使役する者よ』 「えーと…色々教えて欲しいのですけれど…その、ノクターナル様?」 全くルイズはついて行けない。プリンス、女じゃない。 ていうより誰よシシスって。マラキャスって何。それのメイス? 純正って事はそれ以外もいるのかしら?ていうより、狭間ってなに。 それじゃ私たちってなによ一体。いえ、それよりこんなのが本当に王族なのかしら? 置いてけぼりをされている彼女からすれば、至極当然な考えであった。 「まず、何故王子なのでしょうか」 『我らの性など、定命の者達からすれば特に意味はないのであろう。 常闇の父より生まれし我らは、皆かの方の子。 故にシシスを王として考え、我らを王子とする定命の者の呼び名よ。 実のところは、王子と呼ぶべきでない者も、 同じように扱われているのだ。嘆かわしいことにな』 それがさっき言ってた純正とは違う存在なのかしら。ルイズは質問を続けた。 「ええと、そのシシスとは一体?」 『我や多くのデイドラを創りし存在。常闇の父とも言われるお方。アヌイ=エルの対となりし混沌その物。 定命の者には、蛇の形をして無秩序を示す何かとしても知られているな』 シシスってデイドラ…なの?ていうより何なのアヌイ=エルって。 ルイズは、聞けば聞くほど墓穴を掘っているような気分になった。 「アヌイ=エルとは、アヌの事でしょうか?プリンス・ノクターナル」 マーティンからしても、色々と発見があるらしかった。 そういえば、デイドラの王と話す機会なんて滅多にないとか言ってたわね。 ルイズはそう思いながら、ノクターナルの口が開くのを待った。 『お前達やいくらかのデイドラはそう呼ぶ。だが、我はアヌイ=エルと呼んでいる』 マーティン曰く、アヌは最初に存在した二神の内の一神らしい。 詳しくは後で話すと言った。 「そしてパドメイはシシス、か…」 いや、何なのパドメイって。ルイズは少々怒りながらマーティンに言った。 さっきから話がごちゃごちゃし過ぎているのだ。少しずつ解説して欲しいものである。 「私たちからしてみれば世界が生まれる前に、アヌと争ったと言われる存在さ。 デイドラの生みの親だけど、デイドラではないと言われている存在なんだ。後で昔から伝わる伝記を教えるよ。 それが正しい物ではないのだけれど、知っておかないと何がなんだか分からないんだ」 彼はルイズに自国の神話を教えてはいない。そもそも賢い彼女に教えたらどうなるか。 神話だからつじつまが合わないのだが、それをそういうものだと理解してくれるか疑問だった。 こっちの創造神話は知らないが、タムリエルのそれは色々と解釈し難い部分が多い。 マーティンは神学者ではない。一介のメイジから、色々あって街の司祭になった人物である。 その為、神々については一般人よりも詳しいが、神々の生まれはそこまで詳しくはない。 メイジだった若い頃はそんなことより力を求めていたし、 それを恥じて九大神教団に入信した後は、一般的に知られる神話を近所の子供達に教えたり、 教会にやって来る人々に説法を説いたりして過ごしていた。 神の力を恐れ、踏み込んで学ぶ事をやめたのである。 そんな訳で自分がいたシロディールの事や、友と行った数々の洞穴や遺跡についての事、 それとこっちの魔法について食事時や寝る前等に彼女と話して過ごしていた。 「ほんっとうにややこしいのね」 頭を抱えてルイズは言った。ハルケギニアの神話に慣れ親しんできた彼女は、 全く違う世界の全く違う神話について言われても、頭の中での整理がつかない。 むしろ今まで聞いてきた物と混じって余計に頭がこんがらがってしまう。 そもそも、神話が全て真実だとは思っていない。ルイズは別段何も無ければ頭の良い子である。 神の存在に関する疑問は当然持っていた。魔法の恩恵が無いのだから尚更である。 だが、ここに生き証人らしき存在がいる。少なくともマーティンはそれだと言っている。 ならばさっきからの話は真実なわけで。神話なのに全部本当って…と頭を抱え込みねじらせながらルイズは考え込む。 「ああ、神話だからね。本当かどうかすら分からないよ。 デイドラやエイドラがいる以上、それに似た事があったのは間違い無いのだけれどね」 マーティンはそう言ってデイドラについて、 解釈の仕方で分かりやすくするために嘘を言ってすまなかった。 と悩むルイズに謝った。 後で話すのは『子供向けアヌの伝記』 神々の関係性を考える時に、最も分かりやすい物語である。 その内容が、本当かどうかを別にして考える必要性を除けばだが。 古い伝説を語る定命の種族はいない。もう昔過ぎて、皆死んでしまったからだ。 タムリエルに点在する、墓場の幽霊達に聞くのも悪い選択では無いが、 先史以前の神話期等の話は期待できないだろう。 そんなに長く留まっているのは稀で、特に世界が生まれる以前の話というのは、 定命の存在自体がいなかったのだ。 語ってくれるだろうエイドラにせよデイドラにせよ、 その内容は主観が多分に入る上に、アカトシュの造った障壁によって、 どちらとも生半可な技術では呼び出すことが出来ない。 帝国はエイドラである九大神を国教としているが、 デイドラを信仰している帝国領の国も多数ある。 どちらが真実かは、確かめようがないのだ。 ハルケギニアが生まれるよりも昔の事だから、 語る事が出来る存在達も多くを忘れているだろう。 出番が欲しそうにカタカタと鳴っている剣の様に。 グレイ・フォックスの号令の下、盗賊達は順調に荷物を運んでいる。 頭の中で今の話を整理しようとするルイズだったが、 どうにも上手くいかない。当たり前な話だが、 上手く整理させる材料が少なすぎるのだ。マーティンはノクターナルと話を続けている。 帰る事が出来るかどうかについて聞いているらしい。 邪魔するのも悪いわよね。そう彼女は考えて、 後でマーティンから伝記とやらを教えてもらってからと思い直し、 タルブの村を見回してみる。見知った二人が船の近くで寝そべっている風竜に乗っていた。 そういえば、さっきもこの竜が物を運んでいたわね。 そんな事を思いながら難しい話はひとまず置いて、船を降り竜の方に向かう。 疲れて眠っているらしい竜の上から声が聞こえた。 「あら、生きてたの?」 そう言ってキュルケは笑う。タバサはルイズからしてみればいつも通りの表情に見える。 何も言わず、彼女はキュルケに抱きしめられていた。ルイズは竜を上ってキュルケへ近づき、 ふん、と意地悪そうに笑った。 「おあいにく様。そう簡単にヴァリエールの女は死なないのよ」 「へぇ。悪運強いのね」 優しい笑みを浮かべられながら、ルイズは頭を撫でられた。悪い気はしない。 「これから依頼成功の宴をするんですって。アルビオンの王子様とかもいるから、あんたも参加しなさいな」 「へ?今、何て」 少し間を空けてルイズは聞き返す。口をあんぐり開け、いかにも驚いているといった表情で。 「知らないの?この人達が来た理由って、それらしいわよ。お姫様に頼まれたんですって」 姫さま…と、ルイズは思った。私には何も言いませんでしたよね。 アンリエッタの事を思い、信用されていなかったのねと悲しくなるルイズであった。 「ノクターナル様。お話が」 『何用か?我の頭巾を奪いし者よ』 一通り運び終えたグレイ・フォックスは、ノクターナルに話しかけた。 話の終わったマーティンはルイズの方へと歩いて行った。 おそらく、ルイズに伝記を教えにいくのだろう。 「最後の一つを忘れておられます」 『本当に、返すのだろうな?』 彼女が返して欲しがっているのは灰色頭巾。 シエスタの祈りよりも、打算的にノクターナルは動いていたのだ。 神様といっても祈れば動く訳ではない。デイドラ王子というのは、 それ相応の報酬か、必要に迫られたしたくもない雑務か、 楽しい暇つぶしにならないと動きはしないのだ。 「ええ、必ず返しますとも」 グレイ・フォックスは笑って言った。手にはいつから持っていたのだろうか。 変わったピックを携えている。ノクターナルはローブのポケットを漁り始めた。 『いつとった』 「さて、何の事でしょうか?」 『話が違うぞ!我を謀るというのなら…』 いくらお前と言えども、と言おうとして邪魔が入った。 いつのまにかそこにいた、麗しき影の君である。 「落ち着いて下さい。ノクターナル様」 営業用の黒いローブとフードに身を包んだ彼女は、穏やかにそう言った。 運ばれてきた王家の二人を見て、ただならぬ雰囲気を感じ取り、 急ぎ彼女は船へと行ったのだ。ちなみに、誰にもバレてはいない。 美麗ながら気配を消す才能がある。夜の女王に影認定を受けるのは、 伊達ではないといったところか。 『我が影よ!この者は契約を違えたのだぞ?他のデイドラにそれをすれば魂を抜き取られても文句は言えぬ』 荒々しいままに言うノクターナルを、ティファニアは優しく受け流す。 この姿で行う王都での様々な活動は、彼女を熟達の弁舌家に仕立て上げた。 いつもの姿ではほぼ発揮できないのが残念な点である。 「麗しき我らが守護者である夜の女王ノクターナル様。あなたはとても優しく慈愛に満ちていらっしゃいます」 ぐ、とノクターナルは黒一色のテファを見た。案外、ほめられるのに弱いらしい。 「ですから、定命の存在のちょっとした『悪戯』を笑ってお許しになられます」 『し、しかしだな我が影よ。これには領域を持つデイドラの面子というものが…』 ノクターナルは後の方を口ごもりながら言った。テファが優勢の様だ。 グレイ・フォックスはそこに割って入った。 「偉大なるデイドラ王子ノクターナル。確かに私は返すと言いましたが、 何を返すかまでは言っておりませぬ。ですから、この『不壊のピック』(Skeleton key) をあなた様に返したとしても、契約の不履行とはなりませぬが…」 そこまで聞いて、ようやくノクターナルははめられた事に気が付いた。 『…やはりお前は口が上手いな。我の頭巾を奪いし者よ』 「お褒めいただきまことにありがたく思います」 「さぁ、ノクターナル様。最後の一仕事が終われば宴ですから頑張って下さい!」 ため息をついて、ノクターナルは影に消えた。それを見て、ふぅ。とティファニアは息を吐いた。 そして冷たい目で灰色頭巾の男を見る。怒りの視線をフォックスに投げかけつつ口を開いた。 「あの方を騙すのはあまり良い事とは思えません。コルヴァスさん」 「とはいえ、お姫様の要求がそれだからな。仕方ないだろう?テファ」 連れて来たら出来る限り早く会わせて下さい。そうアンリエッタは涙ながらに叫んだ。 その気迫は間違いなく王家のそれであった。もっと違う所で発揮してくれれば言う事はないのだが。 「それでも、私たちを守ってくださる方を騙すのは良くない事です」 「ああ、そうだな。だが、この頭巾を取って俺が誰かを分かるのは君だけだ。そうだろ?」 おそらくはルーンの効果なのだろう。彼女だけは彼を「コルヴァス・アンブラノクス」として、 常に認識できる。 「なくなればどうなるか。分かるか?妻や友人、その他多くの顔なじみに声をかけて無視される気持ち」 「それはそうですけど、ちゃんと頼んで誰も傷つかずに済む方法もあったはずです」 テファの強い口調に、コルヴァスは押され気味に言った。 「まぁ、それはそうなんだが。アレを動かすとなるとな…」 それを聞いてティファニアがかっと口を開く。元々正義感が強い方なのか、 ローブを纏った彼女は義賊的な美徳は許しても、不義を許す気は一切無い。 「アレって何ですかアレって。崇拝すべきお方だって言ったのはあなたですよ? だいたいコルヴァスさん。スキルニルは別にしても最近お金の使い方が荒っぽいです。 皆に配る分まで使ったりしていませんよね?それに…」 お説教とも言えるテファのお話は、彼女に気付いた盗賊達が、 自分たちの戦果を報告に来てからようやく終わった。 間違いなくそこに佇む灰色の変な頭巾をかぶった親父より慕われている。 やっぱり、盗賊ギルドの長は彼女なのかもしれない。 俺、何で怒られたんだろう。ちゃんと運んで来たってのに。 若かりし頃の妻を思い出す。手癖が悪いことをよく諫められたな。 はぁ、とため息を付く。今日はヤケだ。飲むぞ。たくさん飲むぞ。 影の君の後をトボトボ歩くグレイ・フォックスの背中は、 一仕事を終えたにしては哀愁が漂いすぎていた。 その頃、アンリエッタ。 「は、離しなさい!もう足掻いてもどうにもならない事は分かっているのでしょう!?」 気絶から覚め、彼女はグリフォンから逃げようと必死である。 ワルドは、落ちた時を考えて高度を上げる事も出来ず、微速前進で進むしかなかった。 「嫌だ!今離したら僕が終わる!終わってしまう!!」 ワルドはワルドで、そんな姫殿下を降ろすまいと必死である。 至近距離からの烈風とその使い魔の咆哮があるのだ。 必死にならない人間はいない。 変則的な動きでグリフォンを翻弄するマンティコアが一体。 それに乗る人も一人。魔法はまだ使われない。 強力過ぎる為に、どう狙っても姫殿下を巻き込んでしまうからだ。 「今ならまだ間にあう!早々に姫殿下を離し、投降せよ!!」 嘘だ。絶対嘘だ。その目は離したと同時にスクウェアスペルを叩き込む気の目だ。 彼女の「しつけ」なら見たことがある。ずっと昔ルイズを訪ねた時に見た。 何で子供を空高く吹き飛ばす必要があるんだ! あれでもまだ加減していると公爵は言っていた。本気なら確実に消される。間違いなく。 だが、どうする。ええいままよ!とワルドはグリフォンを加速させて高度を上げ、 アンリエッタを投げ飛ばし、出来うる限りの最高速度で逃げ去った。 種族的に、マンティコアよりグリフォンの方が速いはずである。 それに賭けてワルドは逃げ出した。 「姫殿下!」 ワルドを追いかけたかったが、姫殿下の命が最優先である為、 空から落ちるアンリエッタへと急いだ。当然、彼に魔法を放ってから。 先に遍在でも仕掛けておけば良かったのだが、 刺激して自暴自棄になられるともっと危険だと判断したのだ。 レビテーションの魔法をかけ、ゆっくりと落ちるアンリエッタを掴もうと近づき、 後少しで手が触れるというところだった。 カリーヌは、突然現れた影にアンリエッタが飲み込まれるのを見た。 そして影が消えると、そこには何も残っていなかった。 ワルドは奇跡的に魔法から逃れられたらしい。もう視界から消えていた。 自身の腕が鈍った事をカリーヌは痛感しつつ、後からやってきた衛兵達に状況を説明し始めた。 前ページ次ページジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8248.html
前ページCall of duty Undiscovered Country Torisutein 「枢機卿、敵の進行状況は。」 「現在、敵は隣接している地域を低速で侵攻しております。各村の避難状況は進んでおります、が。」 枢機卿は、立ち上がり、近くにある窓に杖を向けた、方向を指しているらしい。 「あの方面から火の手が見えるのも、時間の問題です。」 「過去の小競り合いの時出来た砦で何とかなってる状態でしょうか。」 枢機卿は小さく溜息を吐いた。 「姫、あんな小砦は防壁にすらなりません、固定化すら薄れ、守る力が無いのですから。」 「では皆、何をして……。」 「――、決死の覚悟で後退戦をしてる、と言ったとこでしょうか。ヴァリエール家領土は今だ一つの領土も占領されておらず、流石烈風カリン殿と言った所でしょうか。そこを取れない為に他ゲルマニア侵攻軍の足も停滞気味になっております。」 「烈風カリンの復活ですか、それがヴァリエール家に?…………ですが。」 「それも時間の問題――ゲルマニアも、酷な事をしますな。」 枢機卿と言われた男は、それから言を止めた。 言っては更に酷と思ったのであろう。そう、この王国は先代から当代に移ったばかりで政治体制が整っていない。その状況下を見越して、攻めてきたのだ。 「何故、攻めてきたのでしょう……。」 「ゲルマニアは金があれば平民も領土を手に入れ貴族になれます。 私の推測ですが、多分ゲルマニアは今過剰領土が無く、地位を持っている者共が反発、 それを見て体制を崩されかねないと見た帝が攻めて来たのでしょう、 目的はこの領土、なれば休戦や講和など無意味、奴等が狙っているものは我が国の滅亡、でしょうな。」 しかし、ここで疑問が一つゲルマニアにおいて、金を持つ者のその数は少ない。 なら、簡単に領土不足になる事は無い。原因は、他国の金持ちがゲルマニアの領土を買い占めたという事なのだろう。 「多分、ガリアが裏にいるのでしょうな。」 「何故ガリアが?」 おおよそ、娯楽か。 それ位にしか考えていないのであろう、あのガリア国王は 話し合いをしていると、伝令が姫と枢機卿のいる方向に走ってきた。 「伝令!ガリアから食料と銃。大砲、葡萄弾の援助が来ました!」 枢機卿の顔色が変わった。 「なるほど、我が国を実験場にしたいのか。」 兵器の性能は実戦を行い始めて分かる、ガリアは魔法先進国、全体技術力も。 トリステインとは比べ物にならない。 しかし、ガリア国内も落ち着いてはいない、ガリアが今戦争状態になったら、反体制派が何時反乱を起こすかが分からない、だからトリステインを利用したと考えた。 「物資は何処に送られているのだ。」 「既に城下町からここに届いて来ております。」 「砲までもこのような短期間で飛ばしてくるとはな……。」 計画的犯行と言うのはこのことかというかのように、苦笑を浮かべた。 「それともう一つ伝令があります、王国民皆兵令により現在後方の領民から城下町の16歳から28歳までの男を強制徴兵、現在数は1万となりましたが、何分鎧と剣の数が足りなくて……。」 「分かった、武器庫から全部出す、周りの武器屋からも徴収、職人に石斧でも作らせろ、総力戦だ、急ぎたまえ」 「了解しました!」 「これが戦争ですか。」 「戦争の恐ろしさはその間、国力を消耗するしかないという事です、この戦乱が終わった後、事後処理で地獄を見ますよ。」 姫は溜息を深くついた。 「これ以上の地獄が何処にあるというんです。」 ゲルマニア陸軍のある一連隊、ラ・ヴァリエール領内 ヴァリエール領中心にむけて行軍を続けていた。 「隊長!何でこんな小鳥みたいな相手に手間取ってるんです?」 隊長は青ざめていた、何故ならここにくるまでに何連隊もが敗走して自国領内に逃げ帰っていたからであった、撤退して二度目の行軍の輩もいる、そいつらもあまりよい表情をしてはいない。 「知らないって事は、とてもとても素敵な事だ、従軍を続けたまえ」 他の連隊からは良い戦果報告が届くのに、この領内からは潰走やら撤退やらしか報告されてないのだ。 全滅という報告が無いのがマシだが、もう宣戦布告から三日、後三時間で四日となる、他の戦線を押し上げる事が出来ないのもここが落ちないからだ。 ここを落として戦線を全面に押し上げなければ輜重隊が安全に物資を輸送出来ない そして包囲しようと各軍がこちらに向かえば、一隊一隊が領土まで逃げ帰る始末。 各個撃破されないよう、士官の数を増やせば士官が全員KIA 「もうかえりてーよ、長男になりたかった、パン屋継ぎたかったよ。」 「なんかいいました隊長?」 がくり肩を落としている時、前方に馬の群、騎兵が見えた、数は少数。 「偵察か?攻撃してくるようなら応戦をかけろ!」 気にせず行軍を続ける、すると前方の馬はこちらに向けて駆けてきた。 「応戦!槍兵を前に、槍兵は膝を突き構え!突進を防いだら横っ腹を叩け!」 言われたとおり、隊列の前に槍兵が並び、槍を構えた、馬はとがったもの、障害物には突進できない。 しかし、馬はそのまま突進をしてこず、減速、左右に広がる。 隊長は左に右に、視点を移した、すると突然隊長は後ろから殺気を感じた。 振り向こうとした瞬間、――隊長の頭は吹き飛んでいた。 「またメイジのいない隊……まったく、ゲルマニアにはメイジがいないのかしらね。」 マンティコアに乗った、高飛車な壮年から中年の女性が、杖を振り下げる。 ちなみに言うと、メイジが士官だった隊もこの女性が撃破した部隊の中にいたのだが、即効で殺してしまっていた為、メイジがいなかったようにみえたのだ。 「30年前より体が動かない、まったく。でも、ジャガイモの好色達を屠る程度、造作も無いわね。」 左右に広がった騎兵がもう一度合流をし、向きを反転してまた敵の隊列に駆けていった。 指揮系統の失った敵隊列は、馬に有効な槍兵を有効に扱う事が出来ない。 騎兵は敵の隊列と接触、既に指揮系統を崩された恐怖と、騎兵による蹂躙、敵の領域による未知、これらの要因が全て足され、士気など既になかった。 よって……。 「ば、ばけもんだぁっ!うわぁあぁ」 一人、また一人隊列から抜け出して撤退していく。 気づけば、もうその草原には騎兵と一騎のマンティコア、しかいなかった。 敵の阿鼻叫喚を背景に壮年から中年の女性が騎兵隊に命令を下した。 「追い討ちはよろしい、拠点に戻ります。縦列!」 その命令一つで、騎兵隊は即座に列を成し、拠点へと向かっていった。 「私は良くても数が少ない騎兵と馬の疲労度がピーク、私の魔法力も全盛期に比べて半分に落ちている、もって三日か……。」 その頃、ヴァリエール家屋敷 「カトレア、もう休みなさい。もう限界だろう。」 「まだ負傷者がいるなら、傷の手当がっぅ――ごほっ、ごほっ」 カトレアと言われた、病弱な女性は杖を負傷者の傷当たりに近づけると。 またスペルを唱える、傷は修復していくのだが、見て分かるように既に疲労はピークに達しており、限界が分かる。 「私の優しいカトレア、お前が死んでしまったら私はどうすればいい、お前に先立たれてしまったら父はどうすればいい。」 「ですが……、怪我してる人は、こんなにも――。」 突然体から力が抜け、床に倒れこみそうになるところを父と言われた男性が支えた。 「カトレアを部屋に。」 隣にいた執事にそれだけ言うと、執事は即座に動く。 カトレアが運ばれるのを見送ると、書斎に入っていった。 「さて、我が娘にこれだけの事をしたのだ、ゲルマニアの色痴呆共に教育してやらねばならんな。」 巨大な羊皮紙を取り出す、トリステインとゲルマニアの詳しく言うならトリステイン領土とゲルマニア領土付近の地図が書かれていた。 「現状の整理から始めよう、我が軍は訓練すら終えていない民兵が主、相手は傭兵と国軍の精兵、今は妻の恐ろしい活躍により退けてはいるが、妻も人間だ。疲労がある。国力も兵力も人口も10倍、戦略での勝利方法は耐えに耐え相手の国力が削がれ現体制が危うく継戦が出来なくなるのを待つ、それまで一切の侵攻を許さない、その侵攻を妨げる最後の砦がここ。さて、王国が馬鹿でなければ。兵の増援が来る、どれ位の規模か……敵国に侵攻して、相手から休戦を申し込んでもらうには二万以上の兵はいる。」 さて、そんな兵が急遽集まるかな。そう思いながら窓を見やる 「本国がもし、反撃作戦を練らず城下町での防衛作戦を取るのであれば、話は別だな。」 確かに、草原で接触した場合は地の利を受けれない、ただでさえ兵が少ない今。 それをする事が王国に出来るかどうか、そこが問題であった。 来なければ、最低後三日でこの地は落ちる、落ちれば士気の溜まった敵軍はきっと本国まで容赦ない進撃を続けるだろう。 「せめて後5000の兵があれば……、簡易防壁を作っている事に女子供を動員している現状は不味い。」 その窓から、土等で汚れた女子供が小さな松明を当てにただ土を積み上げていくのが見えた。 「伝統や欲に溺れてまともな政策も出さん結果がこれだ、貴族に対する年金に吸い取られて対ゲルマニア用防衛ライン予算も10年前から降りて来ない、何が空海軍だ、他に何処の国にも攻めれん軍事力の癖に無駄な数がありすぎるのだ」 実際、ここ数年トリステインの国予算はない状態に近かった。 それもそうだ、他国より人口が10分の1も少ない癖に、貴族の数だけは多く。 貿易という概念がまだ無かったとしても言って平原ばかり、伐採技術も進んでるわけでもなく、周辺に鉱山は無く、風石も無い。 農民や町人からそのまま貴族に流れているような状態、そんな状況で更に空海軍維持費に取られ、新艦建造に力を入れていた。 この小国が幾ら血を流しながら働いたとしても、他国空海軍に勝てる程の艦隊を作れる訳が無い、それなら。小型艦主体に建造し、陸軍費に回し、防衛体制を整えた方が合理的だ、というのに。 「あの王国の周りにいる馬鹿どもには理解できんのだろうな、マザリーニもマザリーニだ、周りの反発を恐れて、太った豚共の権力を崩せずにいる。」 その人にはその人の言い分があり、国からの言い分、農民からの意見、貴族の言い分がある。だから枢機卿にも、枢機卿なりの言い分がある。 それは分かってはいるが、このヴァリエール家当主の男は、憤慨せずには入られないのだ、同じ王族の血を引く者として。 前ページCall of duty Undiscovered Country Torisutein
https://w.atwiki.jp/haishinti/pages/36.html
jinbexeと学ぶロシア史 生徒のじんべぇと一緒にルイ14世について学びます。 全20回のこの講座は、最初の6回で17世紀までのフランス史を概観し、残りの14回でルイ14世について本格的に勉強していきます。 前史 第1回 ガリア 第2回 フランク王国 第3回 カペー朝 第4回 ヴァロワ朝 第5回 ブルボン朝の成立 第6回 ルイ13世 本編
https://w.atwiki.jp/maid_kikaku/pages/1156.html
(投稿者:エルス) エルス クロッセル ルミス 国家 概要 国土の南側がグレートウォールに隣接し、東側はガリア侯国に隣接し、その先にエントリヒ帝国を望む連邦制共和国。 永世中立国、直接民主主義国家であり、国家元首が存在しない国である。 ルージア大陸戦争時には武力によって国土を守り、中立を保った重武装国家としても知られる。 それは現在も同じであり、エントリヒ帝国やクロッセル連合、海を越えてアルトメリアからも武器を輸入している。 よって民家と思ってたのがトーチカだったり、道路を戦車が悠々と走ってたり、何処の民家に行ってもライフル銃があったりする。 グレートウォールに隣接する南方では一部要塞化されており、特に対空装備は前線と比べてもなんら差は無いというほど充実している。 首都は国の中心よりやや左へずれた所にある「ヒーレン」で、大聖堂と時計等を初めとし、クロッセル地方最長といわれる6キロにも亘るアーケードもある都市で、平日休日を問わず賑わっている。 また、国土の標高が高いために農業などの産業を発達させにくく、傭兵がひとつの産業となっているが、最近になって自国内生産の兵器輸入も行われている。 クロッセル連合王国に属しているが、その軍事力の殆ど(というより前述の傭兵以外の全部)が国土防衛に向けられている。 軍は陸軍のみだが、航空隊、船舶部隊も保有し、航空隊はフライ級及び所属不明機を迎撃、船舶部隊は国土内の二つの湖に配置されている。 国旗はクロスした二本の赤剣の上に青十字、それ以外の所は白地。 瑛語表記 The Rumis Confederation 楼蘭語表記 留身州(留国) 連邦大統領 デュドネ・ジェルヴェーズ連邦参事 首都 ヒーレン 公用語 エントリヒ語 エテルネ語 ほか 通貨 ユニロ、ユニセント モデル スイス連邦 関連人物 フルス・エヴァンス 所属・出身メード アルヴィト 都市・地名 ヒーレン(首都) フェーザル(ガリア侯国国境に面した商業都市) ジエナード(エテルネ語圏最大の都市) 企業 ルミスアームズ ルドルフ&エドワード 軍隊・組織 クロッセル連合陸軍ルミス駐留軍 ルミス防衛団 ルミス連邦傭兵旅団
https://w.atwiki.jp/puzzle-quest/pages/270.html
アイテムの組み立て クエスト受付場所 概要 内容 追加されるマップ なし ※敵ステータスはプレイヤーにレベルを合わせるみたいなので省略 敵キャラ 所持スキル 所持装備品 攻略手順 報酬 ガリアに残った場合 ソウルツリーの斧 ニーヒに斧を返した場合 「商人マスター」の称号 1000ゴールド 50経験値 どんなクエスト? 「アイテムの交換」クリア後に出現 分岐あり 関連項目 サブクエスト攻略 アイテムの収集→アイテムの交換→アイテムの組み立て
https://w.atwiki.jp/zeromoon/pages/66.html
前ページ次ページ魔眼の使い魔 真っ赤な空に回転する巨大な歯車 地平の彼方を覆う煉獄の炎 荒れ果てた大地に墓標のように突き刺さる剣、剣、剣 「何なのよ、何なのようコレは!?」 パニクるルイズを庇い赤い外套の男と対峙するメドゥーサ 「挨拶も抜きでイキナリ“無限の剣製”ですか英霊エミヤ」 「嫌な仕事は先送りしない主義なのでね」 肩を竦めるエミヤシロウ 「“守護者”である貴方がこのハルケギニアに何の仕事で?」 「本来ならコッチは『アラヤ』の管理外なのだがね、君らが好き勝手やるものだからとう とう私が出張する羽目になってしまったのだよ。もっとも管理外世界に渡るためにガリア 王の召喚に便乗するという裏技を使わせてもらったがね」 左手を持ち上げたエミヤの二の腕に輝くガンダールヴのルーン 「成程、ルーンの力で基本性能が軒並みブーストされているのですね」 つまりエミヤではなくE・M・I・Y・A 「これでは二人がかりでも勝ち目は薄いぞ?」 ティファニアを庇いつついつになく真剣なハサン 「それよりも問題なのはエミヤの左腕にルーンが刻まれているということです」 ビキィッ! エミヤの頬が引き攣る 「つまりエミヤはガリア王とコントラクト・サーヴァントを……」 「きゃ~~~~~~~~~~~~~~ッ!!」 今目の前にある危機も忘れ腐った歓声を上げるルイズとティファニア 「ぬがああああああああああああああああツ!!!」 血涙を流しながら突っ込んで来たエミヤが手じかな地面に突き立った剣の柄に手をかける 「くあせN8#ph16&;@+p¥ふじこ!?!」 耳と鼻と口から鮮血を迸らせ崩れ落ちるエミヤ 「流石の英霊エミヤも、否、英霊エミヤだからこそこの剣の『毒』には耐えられんかった な」 「随分な言い草だね~命の恩人に向って。ま、久し振りの再会だしかわいこちゃんもいる から全然オッケーだけどね」 ヌラヌラと青光りする刀身をくねらせて軽薄そうに笑う剣 「何故、何故貴方がここにいる…“魔剣ワカメ”!?!」 前ページ次ページ魔眼の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4984.html
前ページ次ページゼロな提督 《教皇よ!》 シャン・ド・マルス錬兵場に、一際大音量でラインハルトの声が響き渡った。 《銀河帝国がハルケギニアへ侵略を企てていたなら、とうの昔にハルケギニアは予の 艦隊に蹂躙されていた。予にその意思がなかったから、卿等は繁栄を享受できていた のだ。 この事実こそが、予が和平を望む証である!》 その言葉に、教皇は何も答える事が出来ない。愕然としたまま立ち尽くしている。ジュ リオも剣を握る手から力が抜けていく。 《卿等のいかなる魔法も、どんな大砲も、予の艦に傷一つすら付ける事は出来ぬ。そ もそも、とどきすらせぬし、魔法や大砲を放つ間も与えぬ。予が腕を振り下ろす間に 全て消し飛ばしてくれよう》 ラインハルトはジョゼフへ向けて手を差し伸べる。 ガリア王とミョズニトニルンは軽やかに悪魔像を模した巨大魔法人形から地上へ降り立 つ。魔法人形は地響きを上げながら会場の人々を離れ、周囲に誰もいない練兵場の隅に座 り込んだ。 光が爆ぜた。 次の瞬間、魔法人形は消えていた。魔法人形が座っていた地面も消えていた。半径十メ イル程の大穴が出来ていた。 それがミサイル攻撃だというのは、会場の人々には分からなかった。だが、頭上の艦か ら棒状の物が撃ち込まれた瞬間に巨大魔法人形が地面ごと吹き飛んだのは分かった。 ブリュンヒルトの側面には多数のミサイル発射口が口を開けていた。 それらが会場へ向けられる砲口なのは、アンリエッタ亡命後すぐに山ごもりをして魔法 の修行を続けていたため真相に関して何の知識も得られず、滑稽な道化と成り果てたギー シュ・マリコルヌ・ヴィリエにすらも分かる事だった。 壊れたアルヴィーを握りしめ、虚しく地面にへたり込むギーシュ達の肩を叩く老人の手 があった。それはオスマンだ。その後ろにはコルベールもいる。 「おぬしらを責めはせんよ。ただ、今はあの者達の言葉を黙って聞くがいい」 三人は、呆然としたまま微動だに出来なかった。 《更に言うなら、あれらの艦は全て無人だ。卿等に分かる言葉で言うなら、ガーゴイ ルなのだ。 教皇よ。お前の『虚無』の魔法が、どれほどの奇跡を起こそうとも、万一あれら全 てを消し去る事が出来ようとも、予には蚊が刺した程の事もない。新たに無人の艦隊 を送るだけだ。次は万の単位で、な。 なお言っておくが、卿等の頭上の艦を破壊したら、当然ながら残骸が降り注ぐぞ。 お前達の頭に》 それは、全くもって余計な台詞だ。 ラインハルトは、わざわざ言われなくても分かっている事を口にした。この点、まだラ インハルトも若く、激情に身を委ねる事もある気性の激しい皇帝ゆえ、少々自らの権力に 酔っていたと言えるだろう。ジョゼフが言うように、見た事もない大艦隊を見て怯えうろ たえる人々を目にして、「ついつい面白くなって」しまっても、非難出来る人は少ないだろ う。 事実、教皇にとって確かにラインハルトの言葉は、言われなくても分かっている余計な ことだった。 ヴィットーリオは聖杖を取り落としていた。怯え震える火竜の背で、膝をついていたの だ。もはや教皇としての威厳はなかった。俯き、噛み締められた唇からは何の言葉も出な かった。頭から落ちた円筒状の帽子のことなど、本人含めて誰も気にする事は出来なかっ た。 その姿はハルケギニアの敗北を、教会権威の失墜を象徴していた。竜に並ぶ恐怖の対象 であるエルフ達をも遙かに上回る軍団が聖地奪還に立ち塞がっている事実を、彼等の気ま ぐれ一つで教会は消滅する事を、エルフ達との和平を受け入れなければ本当に消されかね ない事を示していた。 「はーっはっはっはっはっは!」 ジョゼフの高らかな笑い声が響き渡った。 立ち上がる気力もない教皇へ向けて、満面の笑みで語りかけてくる。 「ま、そういう訳なのだよ! これまでの詳しい話は後々教えてやるが、ともかく、今日の調印式典は全て狂言だった のだ」 そう言いながら、ジョゼフはツカツカと教皇が乗る火竜へ歩み寄っていく。 顔を上げられない教皇へ、実に楽しげに朗々と語り続けた。 「いやあ!全くお前の絶望の程には同情するぞ。 自分の全人生を捧げてきたものが、全くの嘘。 力で真実を否定しようにも、圧倒的な戦力差に手も足も出ない。 しかも、それら全てをハルケギニアの全貴族を前に公にされてしまったのだ。 全くお前は立場がない、運もない、たった今から権威も権力も何もない!」 教皇は、何も答えない。答えられない。 ジョゼフは火竜の傍、教皇の近くまで歩み寄る。 そして腕を組み、うんうんと頷きながら話を続ける。 「あ、そうそう、一つ教えてやろう。 実は銀河帝国の人間は、そこで幻影の姿を現しているラインハルトも含めて、全てが魔 法を使えない人間なのだ。俺も驚いたのだが、その若者の国にはメイジも魔法も存在しな いそうだ。 実際、俺も銀河帝国から迷い込んだ連中の遺留品をかき集めて、部下に調べさせたのだ が、一切の魔法反応が無かった。エルフ達も調べたそうだが、精霊の残渣すらなかったそ うだ」 その言葉に、ラインハルトもヤンも小さく頷く。 だが教皇は頷けない。 「つまり、俺たちの上を飛んでいる、あの神の軍勢がごとき大艦隊も、全て魔法無しで平 民達が作ったガーゴイルだ。ブリミルが俺たちに授けた系統魔法も先住魔法も無しに動か しているのだよ。 つまり平民達の力は、系統魔法を遙かに上回るのだ。始祖がハルケギニアに授けた祝福 なぞ不要、と言うほどにな。始祖の系統である『虚無』の使い魔の一つ、俺の使い魔ミョ ズニトニルンの力で生み出した巨大ガーゴイルですら、ほれ、あの通り。奴等の爆弾一つ で粉々だ!」 ジョゼフはあごをしゃくって会場の隅を示す。 そこには、ミサイルで跡形もなく地面ごと消し飛んだ魔法人形の座っていた場所。 もちろん使用されたのは対艦ミサイルではない。核弾頭を外し、適当に火薬を詰めただ けだ。 王は、わざとらしく肩をすくめる 「いやはや、俺だけでなく、マリアンヌ女王やアルブレヒトにも、エルフ達にすらどうし ようもなかったのだ。 何しろ彼等、エルフと銀河帝国の連中が言う事に一つも嘘偽りは無かった。始祖が奪還 を求めた聖地は、草一本生えない荒野。ど真ん中にある召喚の門は、主たる始祖がいない のに開きっぱなし。そして門から飛び出してくるのは、あの『ドラート』をはじめとした 銀河帝国の軍艦ばかり! おまけに圧倒的軍事力。笑顔で『和平に応じろ』と言われれば否応もない。選択肢が他 になかったのだ」 その言葉には、ハルケギニアの女王や皇帝も頷いた。 そして王は、益々わざとらしく教皇へ微笑んだ。 「だが教皇よ、安心せよ!事の責任は、お前には全くないぞ!うむ、お前は全く悪くない のだ! 教会の教えが誤っていたのは、お前が間違えたからではない。お前の先人達の誤りであ り、そやつらの責任だ。 系統魔法が我等を六千年に渡って守り導いたのは真実だ。我等は系統魔法による恩恵を 受け続けていたのだ。ブリミルが我等を蔑ろにしたなんてことも、全く無い!多少の誤り はあっても、ブリミル教自体は間違っていないのだ!」 その言葉に、教皇はようやくジョゼフの方を見る。 全てを失った若者の目に映るのは、満面の笑みと共に自分を慰める男。 「おお!これはつまり、教会はこれからもハルケギニアを導くべき地位にあるという事な のか!?そうだ、お前が教皇である事に、全ブリミル教徒を率いる地位にある事に変わり はないという事だ! 彼等、銀河帝国も俺たちに和平を申し出た。つまりお前の教皇としての地位も教会の存 在も不問とする、という事でもある。 良かったではないか、教皇聖下よ!お前が聖地奪還を諦めさえすれば、お前は自分の地 位を、権威を守る事が出来るのだ!今まで通りにハルケギニアの貴族と平民達へ始祖の教 えを」 バキィッ! 打撃音が鳴り響いた。 ジョゼフの言葉は、頬にめり込む拳で遮られた。 ガリア王を殴り飛ばした者がいたのだ。 だが、それはジュリオではない。ジュリオの前にはミョズニトニルンが立ちはだかって いたから。落としそうになっていた剣を握り直してジョゼフに斬りかかったのを、無能王 の使い魔が遮っていた。 だが、王の頬には拳がめり込んでいた。翼人女性のアイーシャ、ビダーシャルをはじめ としたエルフ達がいるのに、精霊はガリア王を守らなかった。火竜のブレスからは守った のに、男の拳からは守らなかった。亜人達も、何も言わず驚きも怒りも何もせず、ジョゼ フが殴られるのを黙って見逃した。教皇お付きの神官達が動かないよう見張っているのに も関わらず。 上空にいるヤンやフレデリカも、銀河帝国艦隊も、全く動きを見せない。まるでそれが 当たり前のように。 そう、彼等は見ていた。この茶番劇の役者達は、わざと見過ごしたのだ。 ロマリアの教皇聖エイジス三十二世が、火竜を飛び降りてガリア王を殴るのを。 それが茶番劇の一つであるかのように。 だが、そんな事実にすら、教皇は思い至らなかった。 彼はただ、激情に身を任せた。 身の奥底からわき上がる憎悪と憤怒に身を任せるしかなかった。 「全部…全部、仕組んでいたのか…?」 端正な顔が怒りに歪む。 殴り飛ばされた王は、口の端から一筋の血を流し、それでも笑った。 笑顔で答えたのだ。 「そうだ、全て俺が仕組んだ」 「お前が…!?」 その言葉を、教皇は信じる事が出来なかった。エルフはおろか、銀河帝国という超大国 までがガリア王の筋書きに従ったという事実を信じるのは難しかった。 《ガリア王の言葉は真実だ》 ラインハルトがジョゼフの言葉を真実と保証した。 《それが、ガリア王が協力する条件だったのだ。 エルフ達との和解に応じ、ガリア王としても『虚無』の系統としても銀河帝国との 和平を結ぶ。そのかわり、今日の式典は全てガリア王の仕切りにさせよ、と》 ヴィットーリオの視線は、高速でジョゼフとラインハルトの間を往復する。 ラインハルトの説明に、ビダーシャルをはじめ老エルフ達も同意した。 「我等もガリア王の要求には首を捻った。何のために、こんな寸劇をするのかは全く分か らなかったのだ。 だが、ともかくガリア王は全面協力を約束した。我等やヤンが求めた『不殺』の条件を も受け入れた。実際、ジョゼフの筋書き通りに事は進み、誰も死なずに済んだ。なので、 我等としてもジョゼフの案に異論は唱えなかった」 ドゴォッ! 再び殴打の音が響いた。 もはや殺意すら顔に浮かべた教皇が、今度はジョゼフの腹に拳をめり込ませたのだ。 「それじゃ、それじゃあ、お前はこう言うのか? 全ては、私に恥をかかせるのが目的だったというのか!?」 「く・・・くく、く…。やっと、気が付いたか…」 「なんだ、と?・・・どういうことだ。簒奪者よ、一体どういう事だ!?弟を殺し王位を 奪って、次は教皇にでもなりたい…と、そういうのか!?」 ジョゼフは腹を押さえて膝をついている。だが、苦悶に顔を僅かに歪めつつも、それで も笑顔が消えない。 いや、むしろ、心からの喜びに満ちている。満面の笑みを浮かべている。 「くく、くくく…違う。教皇の地位など興味はない。全ては、この一瞬のために仕組んだ のだ」 「この、一瞬…?私が恥をかく、この一瞬に・・・。な、何故、何故だ。私が、お前に何 をしたと言うのだ?」 「お前は、何もしていない。本当に、お前は何も悪くないのだよ。だが、俺は仕組んだの だ。今日の茶番を、な」 よろめきながら、ジョゼフは立ち上がる。 そして、トリスタニアはおろか、ハルケギニア全てに響きわたらさんとするかのような 声を張り上げた。 「お前に、お前に俺を、殴らせるためさっ!」 確かにジョゼフは告白した。教皇にガリア王を殴らせるために、今回の陰謀を仕組んだ のだ、と。 だが、告白をされたからと言ってジョゼフの意図を理解出来るわけではない。殴りつけ た本人である教皇も、あえてジョゼフ本人を守らないように精霊へお願いしたアイーシャ やビダーシャルなどエルフの人々も、モニターで事の推移を黙ってみているラインハルト 達すらも、彼の意図が分からない。 『ドラート』二機はようやく降下艇の隣に着陸して、中からルイズ達が地上へ降り立っ た。彼等もジョゼフの言葉を黙って聞いている。 ジョゼフは大きく息を吐き、呼吸を整え、静かに尋ねた。 「教皇よ、お前は『虚無』の力が何を源とするか知っているな」 その問に、教皇は目を見開いた。 だが口は開かない。何も答えない。 「知らないのか?それとも言えないのか?なら俺が代わりに言ってやる。教えてやる。 それは、闇だ」 闇。その言葉を口にしたジョゼフの顔は、確かに闇が浮かんでいるように見えた。 たとえ闇が浮かんでいるように見えるのが気のせいでも、その口調には明らかに憎悪が 含まれている。 「怒り、憎しみ、嫉妬、絶望…あらゆる負の感情が源となる。『虚無』の系統たる俺と、そ このルイズが保証する。闇が心を満たす時、『虚無』の力は増す。精神力が溜まり、威力を 上げるのだ。 はっ!慈愛に満ち祝福を授けるのブリミルの系統が闇を糧にするとはな。大笑いだ!」 その言葉にルイズも黙って頷く。 彼女の顔には憎悪は浮かんでいない。ただ静かに話を聞いている。だが隣のヤンは知っ ている。彼女の心が闇に浸食されていた事実を。 「大きな力には、暴走を防ぐために封印がかけられる。 そのため『虚無』の系統にも封印がかけられていた。それが始祖の秘宝だ。地水火風を 象徴する4つの指輪と、「虚無」の魔法を伝える4つの秘宝に触れる時、封印は解除される。 『虚無』が蘇る。 だが、この封印にはもう一つの意味があった…『虚無』の使い手に、その心に、闇を満 たすという効果が、な!」 ジョゼフは吐き捨てる。 その心に満たされた闇を吐き出すかのように。己を焼く憎悪が炎となって吹き出すかの ように。心から忌々しげに。 「昔、俺は何一つ出来なかった。封印のせいで魔法が使えなかった。もちろん俺が本当は 『虚無』の系統だなんて、誰にも分からない。宮中の誰もが、母すらも、俺を暗愚と呼ん ださ。 それに比べて弟のシャルルは何でも出来た。皆、弟が王になる事を望んだ。あいつは、 誰よりも魔法の才に優れていた。五歳で空を飛び、七歳で火を完全に操り、十歳で銀を錬 金した。十二歳の時には水の根本を理解した。俺には何一つ出来ない事を、シャルルは容 易くやってのけた」 弟の事を語り出すジョゼフ。その時の彼には、憎悪ではなく懐古と寂寥と、嫉妬と後悔 がみてとれた。天を仰ぎながら、懐かしげに、羨ましげに、そして悔しそうに弟の事を語 る。 「いや、魔法だけじゃない。あいつは本当に賢かった。俺と互角にチェスを指せたのはあ いつだけだった。あいつがいなくなって、俺のチェスの相手は、俺だけになってしまった。 自分で自分を相手にチェスを指す…なんて退屈な行為だ! 賢いだけじゃない、あいつは優しかった。家臣や父にバカにされる俺を見て、あいつは 言ってくれた。『兄さんは、まだ目覚めていないだけなんだ』『兄さんは、いつかもっと凄 い事が出来るよ』と。俺を気遣って、わざと失敗してくれたことすらあった。本当に、あ いつは優しかった…」 突如、ジョゼフの顔が変わった。再び闇が浮かんだのだ。今度は気のせいでも何でもな い、間違いなくガリア王は顔を憎悪・後悔・絶望で醜く歪ませたのだ。 「そんなあいつが、俺は羨ましくてたまらなかった!俺が持たぬ美徳、才能を全て兼ね備 えていた! だが…それでも憎くはなかったんだ。本当だ。あんなことをしてしまうほど、憎くは無 かった。あのときまでは…」 ジョゼフは俯く。 わなわなと手が震える。 衆人環視の中、ジョゼフの独白は続く。 「病床の父は、臨終の間際に俺とシャルルだけを枕元に呼んだ。他には誰もいない、三人 だけの部屋で、次の王が定められた。 父は、俺の名を口にした。 信じられるか?なぁ、信じられるか!?俺は、本当に王に指名されたのだよ。父にバカ にされ、母に暗愚と呼ばれ、宮中の誰もがシャルルを王に相応しいと思っていた。なのに 父は俺を王としたんだよ!」 彼はヴィットーリオへにじり寄る。いまだ唖然、呆然とする教皇の顔を、上目づかいに 見上げながら、腹の底から叫んだ。 「そうさ、俺は簒奪なんかしていない。本当に、俺は父から王に指名されたんだ。本当に 俺が正当なガリア王なのさ!」 彼は腕を振る。横へなぎ払う、会場の人々へ右腕を振り回す。 この中の誰一人としてジョゼフが正当な王だったと信じていなかったであろう、会場の 貴族達へ、真実を投げかけたのだ。 だが、すぐに彼の腕から力が抜けていく。肩が落ちる。 「俺は喜んださ…父は病気で呆けてたんだろうけど、王の言葉は絶対だ。自分は王になっ たんだ、と。 そして、俺の心は、弟への、シャルルへの優越感で満たされた。シャルルの絶望がどれ ほどのものか。自分のものになるはずだった権力が、一瞬で指の間からすり抜けた絶望は どれ程のものか、とな。弟の悔しがる顔を想像した。それが見たくてたまらなくなり…、 横目で盗み見たんだ。弟の顔を。 そしたら、あいつ、どんな顔をしていたと思う?なあ、教皇様よ。どんな顔をしていた と思うよ」 突然、ジョゼフは教皇の胸ぐらを掴む。 力の限りに、自分の間近にまで顔を引き寄せ、あらん限りに己の怒りと絶望を叩き付け る。 「喜んでやがったっ! 俺の下衆な想像は、まったく外れだったんだよ!あいつはにっこり笑って、なんと、こ う言いやがったんだ。『おめでとう、兄さんが王になってくれて、ほんとうによかった。ぼ くは兄さんが大好きだからね。僕も一生懸命協力する。いっしょにこの国を素晴らしい国 にしよう』とな。 ああ、今でも一字一句覚えてる。あいつには何の嫉妬もなかった。邪気も皮肉も無かっ たんだ。本気で俺の戴冠を喜んでた・・・」 教皇の胸ぐらを掴む手の力が衰えていく。 苦しそうな顔で、ジョゼフは言葉を絞り出した。 「シャルル…どうして、どうしてお前は、悔しがってくれなかったんだ…。どうして、お 前はそこまで優しかったんだ…どうしてお前は、俺が持たない全てを…手に入れていたの だ? 俺は、本当に嫉妬した。あいつは素晴らしい奴だ、優しい弟だった。それに比べて、俺 は、なんて下衆なんだ。なんてクズなんだ。なんて愚かで、無様で、無能で、冷酷で、嘘 つきで、残忍で、阿呆で、間抜けで、嫉妬深くて、弱虫で、ちっぽけなんだ…。 なんで、俺は、こんな・・・惨めなんだ」 ジョゼフの目に、光が宿る。 全てを焼き尽くさんばかりに熱く、鋭く、狂気を帯びた光が。 「俺は、弟が憎くなった。 分かるか?教皇様のお優しくて寛大すぎる御心じゃ、俺の様な下衆の狭い心なんか、わ からんだろう?嫉妬が憎悪に変わったんだよ…殺意になったんだよ! そうだ、俺がシャルルを殺したんだ。簒奪なんかしていない!ただ、憎かったから殺し たんだ!何が悪い?俺は王だ。そうだ、後の禍根を断つためだ。弟を担ぎ上げる連中が国 を割るのを防ぐためさ! いやいや、そんな大義名分もいらんな。俺は王だからな。殺したいから殺した、それで 十分だ!何しろ王権は神から、始祖ブリミルから授かった神聖なものだ。王の行いは神の 行いだ! もちろん誰も信じなかったさ!俺が王に指名されただなんて。証人もいない。だから誰 も彼もが俺を簒奪者と呼んだ。弟を殺して王位を奪ったと、な!」 ジョゼフの自白がトリスタニアを覆う。 次元の壁を越え、自動翻訳されて銀河帝国公用語となりステーションの司令室に響く。 狂った笑い声が、宇宙に満ちる。 「あはははっははははっ!ははっはははは・・・・・ そうだ。俺がシャルルを殺したんだ!シャルル、恨むなら己の才と優しさを恨め。お前 のあの晴れ晴れとした顔が、お前を殺したのだぞ。ほんの少しでも良いから、俺を羨んで くれれば、殺さずにすんだというのに! あの日、狩猟会の最中、俺は弟を殺した。何しろ魔法を使えない無能王だからな。しょ うがないので毒矢で射殺した。ガリアの誰よりも高潔で魔法の才に優れた王子が、ガリア の誰よりも下劣で無能な王子の下賎な矢で死んだんだ! いやいや、それだけじゃないぞ!俺はシャルルの娘も狙った。エルフが調合した、心を 狂わす水魔法の薬だ。俺はあの姪に、シャルロットに飲ませようとした。だが、代わりに 母が飲んだ。おかげで、あの美しい女が、見事に狂ってしまった!人形を自分の娘と思い こんでシャルロットと呼び、自分の娘を俺からの刺客と恐れ、怯えてグラスを投げつける のだ! 教皇よ、知ってるか?なぜシャルロットがタバサと名乗るのか…。タバサってのは、そ の人形の名前なんだよ!人形がシャルロットと呼ばれてしまうから、しょうがないので姪 はタバサと名乗った!以来、シャルロットは人形の様に表情を無くし、人形の名を名乗っ てるんだ!」 再び哄笑が響き渡る。 狂気に満ちた笑いが二つの世界を包む。 狂った王は、ただ笑い続ける。 「・・・俺は、俺は、後悔してるんだ。 あいつの愛した女性を、娘を痛めつけても、あの日の痛みには適わん。祖国を、人々を 苦しめても、あの日の後悔には適わん。なのに、なのに、何故なんだ。後悔してるのに、 心が痛まない…。 そうだ、俺は人間だ。どこまでも人間だ。なのに、何をしても心が痛まないんだ。神は 何故俺に力を、『虚無』を与えたんだ?ああ、『虚無』だ!それはまるで、俺の心のようじ ゃないか! 俺の心は空虚だ。腐った魚の浮き袋だ。からっぽだ。喜びも、怒りも、憎しみすらもな い。シャルルを手にかけたときより、俺の心は振るえんのだよ。まるで油が切れ、さび付 いた時計のようだよ。時を刻めず、ただ流れ行く時間を見つめる事しかできぬガラクタだ よ」 ジョゼフは、教皇の胸ぐらから手を離した。 力なく、地に膝をつく。 ただ、懺悔するかのような自白ばかりが続く。宙の一点をみつめ、うわごとのように呟 き続ける。 「だから、俺は決めたんだ。神を倒すと。兄弟を斃すと。民を殺すと。街を滅ぼすと。世 界を潰すと。 あらゆる美徳と栄光に唾を吐きかけるために。全ての人々の営みを終わらせるために。 取り返しのつかない出来事に、後悔するために。シャルルを手にかけた時より心が痛む日 まで…。世界を慰み者にして、蔑んでやる、と。 人として、涙を流したいから」 ジョゼフは、顔を上げる。 ぼんやりと会場を見回す。彼を見つめる人々を見つめ返す。 全てを失った教皇を、信仰を否定された神官を、貴族の地位が砂上の楼閣と気付かされ たメイジ達を、神権を無くした女王を、聖地奪還を諦めた飾りの皇帝を、哀しげな瞳を向 けるアイーシャを、理性的な中にも同情の視線を向けるエルフ達を・・・。 何より、自分の全てを理解してくれるルイズの涙する瞳を。自分と同じく『虚無』に心 を狂わされつつあった娘を。 ガリア王は、天を仰ぎ見た。 その頬には、止めどなく涙が流れ落ちていた。 両の手を掲げた。 拳を握りしめた。 そして、魂の全てを込めて咆哮した。 「やった・・・俺はやったんだ・・・勝ったんだ! 神を倒したんだ! 俺の全てを奪い取ったブリミルを、ぶちのめしてやったんだ! は、はははは!これで、ハルケギニアは終わりだ!教会はゴミ箱行きだ!貴族なんぞ、 系統魔法なんぞ時代遅れの役立たずだ! どうだ、見るがいい!ブリミルよ、お前の作った世界は崩れ去ったんだ!お前が授けた 系統魔法なんぞ、お前の『虚無』ですら、銀河帝国の艦一隻の砲弾一発にも勝てやしない のさ! 神が授けた、あらゆる美徳と栄光は、貴様が守り続けてきた人間共に唾を吐きかけられ るんだ!神を崇め奉るハルケギニアの営みは終わったんだ!信仰が消滅したんだ!!見 ろ!お前の忠実な飼い犬であるはずの教皇すら、お前の教えを忘れ、怒りにまかせて俺を ぶん殴るほどだ!! あははははっははあはははっ!!見たか、ブリミルのクソ野郎!お前が俺に授けた『虚 無』は凄いぞ!お前が俺にかけた封印は素晴らしいぞ!お前が俺に溜め込ませた闇は強大 だぞ!なにしろ、お前自身を打ち砕く程なのだからなぁっっ!!」 ジョゼフは、高々と両の拳を天に突き上げた。 「勝ったんだ!俺は、ブリミルに勝ったんだあーーーーっっ!!」 笑い声が響く。 世界に響き渡る。 狂った男の、悲劇の王の、人々が無能王と呼んだが故に本当に無能王にされてしまった 犠牲者の、神の生贄の、心からの笑い声が響き渡る。 人が神を倒した。 教会の権威と教典の教えは、暴力と陰謀の前に膝を屈した。 真実が信仰を打ち破った。 六千年にわたる、愚神を讃える狂宴が終わった。 第30話 狂宴は終わる END 前ページ次ページゼロな提督